きっかけは単純なものだった。
「行こう、展海峰!」
このフレーズに聞き覚えがあるだろうか。
今夏、テレビをつけるとなかなかの頻度で流れていた某レンタカーのCM。そう、夏といえば旅。旅といえば車。夏の旅行商戦は例年にも増して加熱し、冷え込む消費もなんのその、まさに熱い夏が始まろうとしていた2016年、夏。
遠く離れた地へ旅行に行った際に欲しくなるのはやはり足。あれも行きたい、ここも行きたい。初めて訪れる異国の地で目の当たりにする色とりどりの景色、そこで刺激される好奇心。「せっかく来たんだから」その一言でどんな状況も正当化される瞬間。行楽という言葉が似合う時間。これぞ旅の醍醐味。ああ、島旅に出たい(遠くをみつめながら)
そんな風に思いつつも特に何も思いつかず、結局のところ普段通りもじもじ過ごしていたある日、このフレーズが妙に耳にストンと入ってきた。
展海峰・・・?
ふと北海道を思い出す。地平線まで続くまっすぐな道。道路脇には放牧された牛や馬がのびのびと暮らし、街から街へと渡る様はまるで渡り鳥のよう。その広大な景色を見渡せる展望台は高く、3度の渡道で出会った数々の景色は今も目に焼きついて離れない。
……これもそんなことだろうか?
単純にそう思った。そしてモニターを見つめる。
するとそこに飛び込んできたのは無数の島が浮かぶ「海」だった。
リアス式海岸───
そう呼ばれる島群が日本にあることは知っていたが、まさかこんな景色だとは思っていなかった、その事に気づかされた。
そして思った。「ああ、ここに行ってみたい」と。
展海峰は長崎県佐世保市にある展望台の名称だった。
長崎県までの交通手段はいくつもある。飛行機、新幹線、船etc…
しかし自分はライダーである。ならばバイクで行くしかあるまい。
ただ、思いついたのがお盆休みの数日前のことである。当然準備もしていない。宿も考えていない。ただあるのは佐世保への想い、そして乗れていない単車のみ。
距離を調べると、神奈川から佐世保まで片道1300km。走りっぱなしでおよそ18時間。マジか。
ついと考える。長距離走行は最大1日600km程度、それも北海道での話である。信号も渋滞も無縁の世界とは話が違う。
あふれかえる交通渋滞、宿も満室、飛行機も満席、そんなお盆時期に何も考えず、無計画で佐世保へ走る───
思わずかぶりを振る。いやいやまさか。まったくいくらなんでも無謀だろう、若い体でもあるまいし──
そう自分でも思う。こういうのはこう、もっと計画をたてた方が楽しめるんじゃないか。そんな考えが頭をよぎる。
そもそも宿はどうする?ルートは?観光は?ただ佐世保に行くだけなのか?それだったら飛行機でいいんじゃないか?
しかし───
どうにかなるんじゃないか、そうも思う。とにかく行ってみればなんとかなるんじゃないか、と。
3度の北海道、沖縄、瀬戸内海、伊豆七島への旅──
今までの経験から「迷うよりも、行ってから考えるのも面白い」と感じてもいた。
お盆休みまで1週間を切った。さて、どうしようか───
もじもじした想いはしかし、お盆休みが近づくにつれ次第に薄れていく。
なに、別に難しい話じゃない。まったく、どうかしていた。いつもより深く考えすぎていた自分を恥じる。そう、佐世保といっても結局は陸続き。
とにかく1300km走り続けずっと走っていればそのうち着くのである。
8月11日 快晴 走行距離485km
あっという間に出発の朝がきてしまった。
世の中はお盆まっただ中。行楽、帰省で混雑する交通機関。渋滞情報は推して知るべし、つまるところ繁忙期というやつである。
宿も予約しない。航空券も新幹線も手配しない。まさに身一つ、そして単車一つで走り出す旅───
こうして文字に起こすと「一体自分は良い年をして何をやろうとしてるんだろうか」という切ない気持ちにならなくもないが、あの日、あのCMで遥かなる佐世保の地へときめきを覚えた事に変わりはないのである。これがコマーシャルか。
というかバイクで佐世保とか無謀すぎるし別に違う場所に行っさぁ出発だ。最低限の着替えと全日本道路地図だけを積みこみ、すべての準備は整った。あとは気の向くまま走り出すだけだ。
目的地は長崎県・佐世保。
行こう、展海峰───
あの日見た景色を、この目で見に行こうじゃないか。
AM10:00、自宅を出てまずはバイク店へ直行←
というのも数日前に「あのう、九州ってバイクで行けるんですかね」話をさせて頂いたので、本当に行ってきます(迫真)という挨拶をするためである。決してフラグというやつではない。
駐車場に滑り込むと接客中の店長さんが気づいた。笑っている。流石は店長、もう通じたようだ。
「出発されるのですね・・・!」
「ええ。今から九州行ってきます。宿もその日に探しますw」
「いいなぁーw」
缶コーヒー片手に談笑しているともう一人のスタッフさんが出てきてこちらに気が付いた。彼もまた笑っている。
「おはようございます!この姿をご覧になればおわかりかと思いますが・・・」
「今日はどちらまで行くんです?」
「大阪」
「高速、いま真っ赤ですよ。行けると思うんですか(真顔)」
事前のリサーチでは大阪まで約500km、およそ6,7時間の距離だ。なに、大阪は案外近い。
昼に出るじゃん?そしたら夜7時には道頓堀を歩けるだろう。今夜はたこ焼きをツマミにする。
暖かい声援を贈ってくれたスタッフさん達に見送られ、東名高速厚木ICへ向かう。
246号線が若干詰まってはいたものの、割とすんなり高速に乗れたので「おやおや、これは道頓堀でたこ焼き行けちゃうんでないの」とウキウキしていると程なくして渋滞にはまる。
熱でアスファルトは揺らぎ、容赦なくふきつける排気ガスが鼻を蹂躙する。メッシュとはいえライダースジャケットは保温性抜群。チラリと視線を横に向けると空調の聞いた車内で楽しそうに談笑する家族、カップル、ワンちゃん達。もういろんな意味で熱い。(白目)
PM1:00、足柄PAに到着。
本日すでに折り返しではあるが、まだ関東に居るという現実を暑さですっかり生ぬるくなったいろ●すで流し込む。ぬるい。
あれっ?なんか大阪って遠くね?そもそも起きてから何も食べてなかった事を思い出して昼食をとることにする。
しかしながら時刻はお昼過ぎ、この時間帯のパーキングエリアは混雑が当たり前である。
「何か、何か食べ物を・・・」空調の利いた快適な施設内を周るもやはり満席、それどころか人が多すぎて座るスペースすらない。ちらと視線を向けたコンビニもよくわからない法則で長蛇の列が形成されている。これはあかんヤツやでぇ!
一瞬お土産を買って食べるという荒業を思いつくも、さっきからどうやら「米」を欲している自分に気が付いた。そう、私は生粋の日本人である。日本人ならここはひとつ、お米であろう。
という訳で売店で見つけた「わっぱ飯」というのを購入。まごうことなき米である。どうやらテレビに紹介されたらしい旨が記載されており、注文を受けてから蒸し上げるという素敵な説明が食欲を刺激した。もうテレビとか限定に弱This is it、これだ。
蓋をかぱりと外すと蒸したて熱々のわっぱ飯とご対面。まぐろと桜海老が盛り付けられ、湯気とともに立ち上るごま油の香ばしい香りが鼻孔をくすぐる。ああ、なんだこれは。最高じゃないか。
施設内の席は満席、外のベンチも埋まりつつあったので、二輪駐車場の近くの縁石に腰かけていただいた。セミの声が凄かった。
食事を終えると西へ。時刻は13時を回った。佐世保までの距離を考えると今日は大阪まで行っておきたいところだが、なんというか距離感が全くつかめてないから怪しくなってきた(遠くを見つめながら)
そして立ちはだかる高速道路の分岐点。
正直、名古屋までは行ったことあるけどその向こう、つまりは東名高速のその向こうは未知の領域である。
例えば「大阪」という表示を目標に走っていると、なぜか近くなると表示が消える。または「分岐の右も左も大阪」だったりする。こちとらナビも無いのにどうないせいっちゅうねんという話である。「うーん、きっとこっちかな?」で間違えると1人伊勢湾サミット開催、大変面白いことになってしまう。
そこで全日本道路地図を見つつ、別の高速の分岐が近くなるとその都度PAに寄って確認、この作業が必要になるのだが、走ってはとまり、行先・分岐の名称を確認、走行を繰り返す。刻々と暗くなる空、全く近づかない大阪───
東名高速 → 伊勢湾岸 → 東名阪 → 新名神 → 京滋バイパス → 名神 → 大阪
何でこんなに高速いっぱいあんねんおおよそのルートは理解したものの、走れども走れども近づかない大阪………あれっ?名古屋から大阪ってこんなにあったっけ?
「折角バイクで走るんだし、いっぱい寄り道できちゃうじゃん!」
とか思っちゃっていた自分を思い出す。そんな、まさかあれがフラグだったとは───
そう、寄り道は寄り道でも「パーキングエリア」である。確かにそうなのだが、決してそういうことではない。私は観光をしたいのである。
しかし1時間~2時間を目安に休憩もとらなければ尻が割れるのもバイク乗りの宿命。ここは甘んじて受け入れる他無い。
PM7:14、甲賀土山PAに到着。
完全に暗くなってしまった。そう、いわゆる夜というやつである。閑散とした二輪駐車場にバイクを止め、施設掲示板で現在地を確認する。
「なん・・・だと・・・」
位置的には名古屋を過ぎて伊勢湾を渡ったあたり、といった所で大阪へはあと2時間かかるようだ。つまりは9時~10時に到着という事になり、道頓堀でたこ焼きNIGHTは諦める他無いという現実を受け入れざるを得NIGHT。(←錯乱)
虚脱感に襲われるのもつかの間、もっと大変な事実に気が付いた。
今日の宿を予約していない。
さて、名古屋といえばやはり天むす。その名の通り天ぷらおにぎりである。
身がぎゅっと詰まった海老天を衣事ごと炊き立てのお米でふんわり包み込み、本来は別々である「ごはん」と「おかず」が1体となった珠玉の逸品。素晴らしい、なんと合理的で無駄のない品であろうか。それがなんと4個も入っている。海老も大振りでおいしそうだ。まったく、初日からこんな贅沢をしていいのだろうか・・・
時刻は7時半を回った。
パーキングは夕食を求める人でごったがえしていた。
しかし時間的なものか、外の売店はすっかり店じまいの様相をていしている。かろうじて照明が届いていた木製のベンチに腰掛け、施設で買ってきた天むすにかぶりつく。夏とはいえ日が暮れると肌寒さも出てくる。ホットのお茶が冷えた体に染みこんでいく。そう、腹が減っては戦はできぬ。何事も順序が大切である。
さぁ、まずは落ち着こう。名古屋名物で腹を満たし、そして現状を冷静に確認しよう。
スマホで「楽天ト●ベル」を呼び出す。
「8月11日」「大阪」「道頓堀」で宿を検索。0件。
「バイクで野宿は初めてだな……」
お茶がぬるい。食べ終えた天むすの容器が肌寒そうに影を落としている。すまん、もうちょっと一緒に居てくれないか。
現実はいつも想像以上に過酷である。そう、世間はお盆まっただ中。時刻は7時半。活気あふれる道頓堀は多くの観光客でにぎわい、たこ焼きが飛ぶように売れているのであろう。今震えているこの身体は、決して心細さからくるものではないと信じよう(空を見上げながら)
道頓堀はやはりだめか、しかし他の繁華街はどうだろうか───
改めて検索を開始するものの、大阪の主要繁華街は全滅のようだった。
予想してはいたものの、まさかの0件。OK、わかった。大阪観光は諦めよう。そもそも今からじゃ10時到着である。っていうかそれお店開いてないやん(涙目)
地図を眺める。大阪の手前に京都があるが………京都か。日本を代表する古都。今日は京都に泊まり、朝は早い時間に少し街並みを見て回る───ああ、悪くないな。全然ありだ。
早速検索を開始。
「8月11日」「京都市内」で宿を検索。0件。
「サイトシーン………!」
現実を忘れていた。外国から観光に訪れる場所といえば京都。今はお盆まっただ中。激混みにも程がある時期である。大阪以上に宿はなさそうだ。それでも諦めずに探していると数件見つかるも、1泊18900円。高速代かっ。
中心街がだめなら・・・
そう、バイクという機動力を生かして郊外でも十分いける。中心街での観光も捨てがたいが、何よりも宿に泊まる方が優先される状況にあるといえよう。折角の長距離旅である、地物で酒盛は外せない。
平静を装いながら検索を続けていると「池田」という地域に安めの宿があるのを発見。大変リーズナブルだ。部屋も空いている。
地図で調べると大阪の西に行った辺りのようだった。ここから2時間……とすると10時着。少し遠い気がする。近場の京都で探すべきだろうか……
しばし思案していると部屋数が減った。おや、この時間に自分以外にも宿を探している人間が──?何故か親近感を覚える。
なるほど、こうやっている間にも宿は埋まってしまうかもしれない。このまま行くと野宿漫画喫茶という手段もあるにはあるが……
ならば今目の前にあるこの宿をおさえ、そして向かうべきなのではないだろうか。なに、遅い時間ではあるが駅前に出れば居酒屋の1件もあるだろう。そうと決まれば話ははやい。そのまま予約を進める。大人1名、素泊まり、チェックイン時刻………?うーん、10時半。
PM9:30 中国豊中ICに到着。
名神→中国道に渡る合流交通が今まで見たことのない大渋滞を引き起こしており目の前が軽くブラックアウトしたものの、なんとか10時前に高速を降りる。やはり主要都市近辺はえらいこっちゃ。
予約した宿に近い中国池田ICで降りようと思ったら何故か降りれないらしく中国豊中で国道に降り立つ。
大阪や!大阪に来たでぇ!車が猛然と走り去るIC出口で1人盛り上がる三十路。さて、まずここはどこだろうか(真顔)
何しろ土地勘も無ければ生粋の方向音痴なのである。そんなおじさんが無計画で知らないICに降りたらそりゃ迷うってものですね。しかし案ずることはない。そう、手元には全日本道路地図(最新版)があるのだ。これさえあれば日本中どこへでも行ける。
いそいそとシートバッグから取り出した全日本道路地図を開いて現在地を確認。そして硬直した。
詳細地図が無い・・・?
なんと中国豊中IC付近の道路がかなりのおおまかな線で記されており、自分の位置がおおまかにしかわからない。つまり今自分がいるのは「たぶん中国豊中IC付近っぽい所の近く」という感じである。本気か。
あまりの事態に漏らしそうになるも、待てよと思い当たる。
そう、すっかり存在を忘れていたがポケットにスマホがある。という事はつまり、グー●ル先生がいるという事である。
しかもGPS機能付きで現在地もわかる。いやはや、まったく便利な世の中になったものだ。
早速現在地を確認する。流石はグーグ●先生、今自分がどっちに向いてるかもわかる。これなら何とかなりそうだ。地図をたどると宿は確かに近隣らしい。およそ5分圏内である。いいぞ、10時前にチェックインできるかもしれない・・・!
PM9:51 本日の宿に到着。
少しばかり迷ったものの、なんとか宿に到着した。荷物を降ろし受付に入ると大阪弁でとても優しいおじいさんが出迎えてくれる。生の大阪弁に触れて大阪へ来た実感が湧く。手続きを済ませて部屋に入り、シャワーで軽く冷や汗を流す。シャツ脱いだら汗かきすぎて塩吹いてて真っ白だった。着替えは1着しかない。後でコインランドリーを探す事にする。
外出します、と言い置いて外へ。
何しろ時刻は22時をまわっている、お店が閉まる前に地物にありつきたい。お酒を片手にたこ焼きNIGHTを満喫するのだ。
「駅前に繁華街があるから飲み屋もおおいですよ」という情報を頂いたので早速そちらへ向かうことにした。そう、今まさに飲み屋を探しているのだ。一刻の猶予もない。
少し歩くとどうやら人の流れが駅っぽい雰囲気を見つけたので合流すると、ほどなくして駅が見えてきた。
阪急石橋駅である。
駅舎にタクシーの待合がくっついていた。人はまばらではあるが電車も動いているようだ。
折角なので改札前まで歩いてみる。知らない地名がずらりと並ぶ路線図に旅情を強く感じる。ああ、なんだか旅らしくなってきた。
さらにうろうろしてみる。
なるほど、駅周辺には確かに飲み屋が多いらしい。早くも寄った集団が楽しそうに談笑している姿が見受け・・・もう10時過ぎということを失念していた。
駅前にはアーケードの商店街もあり、こちらもふらっと歩いてみる。自身の田舎でもある松山の街を思い出して懐かしさを感じながら歩いていると、学校帰りなのか、学生も多く集まっていた。そこに青春の面影を探そうとしている自分に気が付く・・・おっと、何も考えずに西に向かって走っている今この状況こそまさに、青春というヤツではなかろうか。(星空を見上げながら)
一通り地理を把握した後で、路地裏にある一軒のお店に目星をつけた。
木組みの店構えが明るく、店の外に陳列された酒瓶も雰囲気が良い。お酒の種類も多そうだ。よし、ここにしよう。
がらりと入ると、遅い時間のせいかお客さんの姿もまばらだった。カウンターに案内され、とりあえずのビールを注文する。
焼き鳥がメインのお店のようだったが、暑い中走ってきた後で欲するのはやはりさっぱりとしたもの……そう、なんといっても刺身であるたこ焼きどこいった
1人で刺盛り。ああ、なんと幸せな響きだろうか。この手作り感がまた可愛い。こういうのが欲しかった。
刺身も地のものらしく、脂がのって歯ごたえもあり、まったくもってビールが止まらない。ただただ旨い。
こちらは鶏レバーのたまり漬け、という一品である。面白そうだったので思わず注文してみた。
身はやわらかく、かみしめる度に濃厚な旨みが口いっぱいに広がる。これまた旨い。ニンニクの風味がまた香ばしくていい。
あんまり美味しかったので勢い余って串も注文。若干お腹いっぱいにな塩加減も絶妙だ。
一応の目標でもある大阪まで来れて、こうしてお酒にもありつけた。宿も確保し、お腹も満たされ、ようやく一息つくことができた。そういえば某テレビ番組で路線バスの旅をするものがあるが、なんだか今自分も同じことをしているような感じだろうか……
明日は佐世保まで入りたい───
現地での観光も考えると、佐世保に連泊するのが理想だった。しかし今日走った感想として思いのほか移動に時間がかかるのも実感している。ましてや神奈川→大阪よりも、大阪→佐世保の方がかなり長い。あまり悠長なことはしていられない、明日は早朝に出発しようと心に決める。
店内に流れるジャパニーズロックに聞き入りつつ、しばし晩酌の時間に身をゆだねる。
我慢できずに地酒入ります。
おすすめの辛口、美味しゅうございました。
こうして知らない土地で知らないお店に入り、地元の食を楽しむ時間………
やはりとてもいい、それを実感する。日本は広い。まだまだ知らない場所があって、知らない食や景色がたくさんある。
折角日本に生まれたのだから、少しでも多くの物に出会いたい───
そんな事を改めて感じていた。今回の旅では一体どんな初めてに出会えるだろうか。
お酒を持ってきてくれたお姉さんに「実は神奈川から佐世保に行く途中なんですよ。バイクで」と話を振ったら凄い顔をして驚かれた。やはり自分も青春まっただ中なのであろう。
なんでもお姉さんは近々北海道に旅行に行くそうなので、自分が感動した場所でお勧めを教えてみた。
道道106号線、オロロンライン、宗谷岬、知床、美幌峠、開陽台、摩周湖、神の子池、アッケシ、根室───話の途中で待てよ、と冷静になる。落ち着け自分、今あげた場所は移動距離が半端ない。一般の人がそこまで走りまくるだろうか………
しかしお姉さんは「参考にします!」と嬉しそうだった。なんて優しい女性だろう。確か10月頃に行くと言っていたから、今頃は北海道を楽しんでいるだろうか。
帰りもおそらく大阪を経由するので、もしかしたらまた来ます、と言ったら「是非来て下さい!」と言ってくれた。
入ったのが遅かったので程なくして閉店時間となった。明日は早い。久しぶりの長距離走行の疲れを感じつつ、宿への帰路についた。